Outlookというメーラーアプリ、懐かしい存在ですが、なんと2025年2月の月例Windows updateで、Windows 10利用者に最新版が配信されるというニュースが入ってきました。Windows 10の公式サポートは、今年(2025年)の10月に終了するのにメーラーを新たに配信するのです。これには大変驚きました。メーラーをいま利用し続けるにはデメリットしかなく、メリットが思いつかないからです。
全メールデータの滅失
電子メールをパソコンに吸い上げ、メールサーバーから削除する設定になっているのがメーラーを利用している場合の標準設定ではないでしょうか。これにより、レンタルサーバーの契約容量がオーバーしてパンクすることなく、企業名ドメインのメール送受信や、個人ドメインでメールを利用することができるからです。
しかし、パソコンやスマートフォンがハードウェア故障で突然立ち上がらなくなったり、落とすなどして破損してしまった経験を、誰もが一度はしたことがあるのではないでしょうか。パソコンやスマートフォンにメールデータを吸い上げてしまうと、これらの端末が破損して読めなくなった場合は、大切なアドレス帳も含めて全て失われてしまいます。これは現代社会では、とても危機的な状況に陥ってしまいます。
このような事がないよう、常にクラウドに保管されている安心感は、現代社会では必須とも思えます。
アドレス帳情報の漏洩
OutlookやThunderbirdなどメーラーと呼ばれるアプリケーションが、悪意ある組織によってゼロデイ攻撃され、アドレス帳情報が漏洩するマルウェア被害が発生しています。ゼロデイ攻撃の大半は、資金力・組織力のある政府が支援する組織によって行われており、強力なサイバー攻撃のひとつです。メーラーのアドレス帳情報が漏洩すると、自分だけでなくアドレス帳に掲載されていた全てのメールアドレスが漏洩することになり、あなたの名を語った標的型攻撃メールに悪用される危険性が非常に高まります。昔からある典型的なこの手法は近年でも収まっていません。
複数端末からのメール参照
電子メールは職場や自宅、そして移動中にも参照したいものです。パソコンにメールを吸い上げてしまうと、メールはそのパソコンでしか閲覧できなくなってしまいます。これは大変不便です。ガラケーはそのような仕組みでしたが、いまはメールをあらゆる端末で参照することができる利便性、そして電車での移動中に下書きをし、職場に戻って確認してから送信するという使い方を知ってしまうと、そうでない場合は業務効率の悪さにフラストレーションが堪ることでしょう。
メール内の情報検索が遅い
gmailやoutlook.com等のクラウドメールサービスでメール検索をした方は、メーラーによるメール内検索の遅さにストレスを感じていることでしょう。また目的のメールを見つけ出すことができなかった経験も多いことでしょう。高速検索には索引に相当するインデクシングという処理が必要ですが、これをパソコン内で実行するとメールを着信する度に、この処理が必要となりパソコン全体の動作性能を悪化させてしまう大きな要因になります。クラウドメールサービスでは一瞬で目的のメールを見つけることができ、パソコンへの負荷も一切かけません。その処理はクラウド上のコンピュータが事前に行ってくれているからです。
迷惑メールの着信
メーラーを利用していて一番不便に感じるのが、迷惑メールの多さではないでしょうか。メールアドレスを何度変更しても、引っ越してすぐにチラシが郵便ポストへ投函されるのと同じで、迷惑メールを完全に撃退することはメーラーを使う限り逃げることはできません。しかし、クラウドメールサービスでは、迷惑メールの99.9%は受信されることなく迷惑メールフォルダへ格納され、メール着信通知がなされることはありません。これは複数の迷惑メール送信アルゴリズム分析による受信拒否に加え、クラウドメールサービス利用者が迷惑だと申告した情報を分析しているためです。
誤送信サジェストなど最新機能の欠如
メーラー利用者は、宛先にメールアドレスを指定する際にはアドレス帳を利用するのが一般的ではないでしょうか。一覧に並んだ宛先をクリックする際、意図せず前後の宛先を選択してしまい、誤送信してしまった経験はないでしょうか。クラウドメールサービスでは、複数の宛先へ送信する際、過去に利用されていない宛先が指定された場合は、指摘がなされ、また追加が必要だと思われる宛先候補を表示してくれ、クリックするだけで複数の宛先を効率よく入力することができます。私の経験則から誤送信率はクラウドメールサービスの方が圧倒的に低いと推測されます。
メール内容漏洩リスク
契約しているレンタルサーバーのメールサーバーからメーラーへの通信は、暗号通信されているか確認してみましょう。標準的なメーラーではPOP、SMTPは、暗号通信が標準設定となっておらず、POP/SMTP over SSLを意識して設定する必要があります。メーラーの設定で、POP3がポート110は暗号化されておらず、ポート995は暗号化されています。メールサーバーとメーラーの間が暗号化されていなかった場合は、インターネット上で第三者にメール内容をすべて読み込まれてしまうリスクがあります。レンタルサーバー会社によって提供れているWEBメールは、暗号通信が必須となっているため漏洩リスクはありませんので安心してください。
そして一部のレンタルサーバー会社によるメールサーバーは、相手先のメールサーバーへの通信において暗号化が実装されていないケースが残念ながらあります。Google 透明性レポートのメールサーバー暗号化の情報によると世界中に存在する無数の運用中メールサーバーにおいて、日本におけるメールサーバーの暗号化未対応の比率が高く、とても恥ずかしい状況にあります。メールサーバーとメーラーが暗号化されていても、メールサーバー間が暗号化されていなければ、悪意ある者にすべて読まれてしまうリスクがあります。中小企業が利用しているメールサーバーの多くにその傾向がみられ、改めてリスク管理意識の低さが露呈している形になっています。これは、利用者、販売者ともに技術や知識不足からきています。
しかし、クラウドメールサービスを利用するとこうしたメールサーバー間の新たな設定変更などに自ら対処する必要性もなくなります。
クラウドメールサービスを利用すべき理由と方法
個人の場合は、デメリットというものはひとつもありません。セキュリティ、利便性などメーラー利用と比較してメリットが多いクラウドメールサービスですが、個人でプロバイダー提供メール+メーラーを利用している人は、プロバイダー提供メールにクラウドメールサービスへの転送設定を行うか、クラウドメールサービスからプロバイダー提供メールを自動的にPOPやIMAPで取得する設定を行い、既に利用しているgmailやoutlook.comなどのクラウドメールサービスへ完全移行することをお勧めします。これにより今後プロバイダーに縛られることもなくなります。クラウドメールサービスの多くは無料で提供されています。独自ドメインを利用している人は、法人の場合と同一です。
法人の場合は、独自ドメインを利用する必要があるため、2つの選択肢からクラウドメールサービスのがあります。
1.レンタルサーバーのメールサーバーから個人版クラウドメールサービスへ転送
まず全社員にクラウドメールサービスのアカウントを会社用として作成してもらいます。レンタルサーバーのメールサーバ設定にて、各自のメールアドレス宛へ転送設定を行います。その後、全社員のクラウドメールサービスの設定を通じてSMTP over SSLでのメール送信設定を行うと、クラウドメールサービスを利用して会社の独自ドメインのメールが送受信できるようになります。送信時に標準設定を独自ドメインを指定しておくことを忘れずに。もちろん無料です。
2.Google Workspace、Microsoft 365を契約
Microsoft 365にはMicrosoft Officeの利用権だけでなく、独自ドメインによる強力な電子メールサービスも含まれています。しかしながら古い買い切り方のMicrosoft Officeをパソコンと共に導入している企業がいまだ見受けられます。昔と違い、いまのMicrosoftは新機能を月に何度も追加しており、Microsoft Officeの機能は日々進化しています。また、公式サポートが切れた古いMicrosoft Officeを使い続けるのは大変危険です。いまでも古いMicrosoft Officeの既知の脆弱性を突いたマルウェアは、第一フェーズとして感染経路のメジャーな位置にあります。マルウェアに感染によって経理のデータが完全に紛失したり、社内の重要な文章がすべて暗号化されたり削除され、企業存続の大きなリスクになります。Microsoft Officeを利用しているなら、ぜひとも決して高くないMicrosoft 365法人プランで法人メールサービスを利用可能である、一番安価なMicrosoft 365 Business Standardをまずは契約をしましょう。もしそれでもOfficeの予算確保がでない場合は、Office Web AccessというWEB版のMicrosoft Officeが無料で利用できますので、そちらを利用し導入済のOfficeは至急アンインストールしてください。
そして少数精鋭揃いの中小取引にこそ、契約をお勧めしたいのがMicrosoft 365オプションのCopilotです。Officeの基本契約と比較して月額が高額に思えるかもしれませんが、完璧な絵と説得力のある筋道がしっかりとした提案書や企画書のドラフト作成を2分以内にAIが作成してくれます。このドラフトをベースに微修正するだけで、2週間は要した資料が1日も必要なく精度高いものが完成します。会議の議事録もMicrosoft TeamsとCopilotがあれば1分で完成します。Copilotは、少数精鋭の企業において、企業経営者、企画部門、営業部門などの部門では必須ではないでしょうか。賃金ベースアップが求められる中、労働生産性を向上させなければ企業経営は立ち行かなくなります。
Microsoftは高い。そう考え、予算を抑えてセキュリティを高めてOfficeを利用したい企業は、Google Workspaceをお勧めします。使い慣れたgmailと同じメールシステムを企業ドメインで利用でき、社員とコラボレーションするツールが豊富に用意されています。またGoogle Workspaceであれば、WindowsよりもChromebookのほうが適しており、端末代金も大きく節約できます。Chromebookはマルウェアに感染されることはほぼないため、エンドポイント保護のようなソリューション購入も不要になります。出入りのSI会社の営業担当者がChromebookをあまり勧めてこないのは、前年と同じ売上見込みがたたなくなってしまうというのも理由の一つです。
執筆:PC Matic 日本地区代表 坂本光正